あらすじ
十一年間、雛瀬芽衣はひとりのバンドマンの音楽を聴き続けてきた。
眠れない夜も、壊れそうな朝も、イヤホンの向こうから聞こえる彼の声だけが芽衣を救った。
けれど、彼が歌うラブソングの中に芽衣はいない。
彼が誰を愛し、誰を憎み、誰を想って歌っているのか、本当のことなど何ひとつ知らない。
それでもよかった。
芽衣はただの観客だったから。
そして十一年目。
初めてライブへ行く決心をした芽衣は、会場へ向かう途中で交通事故に遭う。
割れたイヤホンケース。
遠ざかっていく音。
薄れていく意識の中で、芽衣が最後に思ったのはたったひとつだった。
「一度でいいから、会いたかったな」
その日を境に、ライブ会場の周辺では奇妙な女の姿が目撃されるようになる。
血に濡れたような顔。
いつも少し離れた場所に立ち、何も言わず彼を見ている女。
メンバーもスタッフも彼女の名前を知らない。
ただ最近、どこへ行ってもいる。
客席に。
会場の外に。
遠征先の街角に。
そして彼女の手には、古びた一冊のノートがある。
そこには十一年間、一度も彼の歌になれなかった女の記録が残されていた。
彼女の名前は、雛瀬芽衣(ひなせ・めい)
これは、神様の歌には存在しなかったひとりの観客が、
やがてその視界に「亡霊」として映り始めるまでの物語。
『GHOST NOTE』