あらすじ
王都の外れ、城壁に沿って築かれた巨大な檻の群れ――王立獣苑。 ここは戦争で鹵獲した魔獣、献上品として送られた怪鳥、行き場を失った呪われた動物たちを飼育する、言わば「生きた兵器庫」だ。
そこに勤めるのは、動物の気配を読むことだけが取り柄の下級役人、織部(おりべ)・ユエ。 元薬剤師見習いの経歴を買われ(実際は口八丁で誤魔化して)、魔獣の飼育簿を管理する「記録係」に配属された彼女は、今日も檻の前で軽口を叩きながら、餌の配分と排泄物の記録を取っている。
ある日、苑内で「不可解な事件」が起きる。 献上品の銀狐が、閉じ込められたままの檻で、首に高価な真珠の首飾りを巻かれた死体となって発見されたのだ。しかも檻の鍵は三つとも保管庫にあり、動物の外傷はない。
「誰が、なぜ、檻の中に入って、狐を殺したのか?」
調査を命じられたユエは、魔獣語の片言を聞き分ける幼い「飼育係」の少女ミサと、なぜか毎朝苑に現れては動物に高級な餌を奢る謎の貴族令嬢ローザ(自称「動物愛護家」、実は「貴腐人」と呼ばれる腐敗貴族の令嬢で、檻の中の生き物にだけ心を許す傾向がある)と共に、事件の真相に迫る。
しかし、それは単なる殺「獣」事件ではなかった。 檻の中で死んだはずの銀狐が、夜な夜な苑内を徘徊しているという噂。 そして、ユエが発見した「飼育簿」の不自然な改ざんの跡――
「この檻、本当は何を閉じ込めておくために作られたんですか?」
魔獣の咆哮の理由を解き明かしながら、ユエは獣苑に隠された「人間の檻」の存在に気づいていく。