あらすじ

旅の途中で、誰にも知られず消えていく唄がある。 吹雪の夜、帰らない父を待ちながら子供たちが歌う数え唄。 狐罠の掛け方を忘れないため、猟師たちが口ずさむ唄。 嫁いでいく娘のために女たちが歌う泣き唄。 舟を海へ送り出す祝い唄。 市場の売り唄。 子守唄。 労働歌。 そして、旅人たちが帰らぬ仲間を待つための唄。 「吹き流れる知恵の収集旅団」で生まれ育ったサリ・ウィ・ロンネが惚れたものは、そんな名もなき人々の唄だった。 節は紙には残せない。 それでも、歌詞と、それが歌われた場所と、人々の暮らしだけなら残すことができる。 「道具の使い方は道具と一緒に廃れる。だが唄は、使い道が消えたあとも残る。半分でも拾っておけ」 その言葉を胸に、サリは四十年にわたって七種族の土地を旅し、唄を拾い続けた。 老いて旅に出られなくなった彼女は、山のような手控えから三十の唄を選び、一冊の本にまとめる。 これは英雄の物語ではない。 歴史書にも残らない人々が、働き、遊び、子を眠らせ、誰かの帰りを待ちながら歌ってきた――そんな「異世界の日常」を集めた、一人の旅人の民謡採集録。 この一冊は、唄の抜け殻の集まりである。 けれど殻さえ残しておけば、いつか誰かが、その中にあった節を思い出すかもしれない。

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小説を読もう2026/09/16
  • 現在の作品旅の拾い唄~唄は、暮らしがいちばん忘れたくないものを伝う~