あらすじ
社畜だった前世、評価に追われ続けた人生。転生後も残る「評価」という呪縛から、不器用な騎士の「分からん」が私を解き放つ、ピアノと再生、ときどき恋の物語。
* * *
会社では部下の顔色をうかがい、ピアノでは先生の指摘に一喜一憂し、いつも誰かの評価の中で生きてきた。
五十を過ぎて再開したピアノも、結局は「上手くなりたい」という自分への採点でしかなかった。そうして迎えた発表会の夜、私は静かに息を引き取った。
気がつけば、孤児院で暮らす少女・リディアになっていた。
何も持たない子供として、また一からピアノに向き合う日々。養父となった伯爵のもとで一流の指導を受け、才能を開花させていく一方で、心のどこかには、かつてと同じ「もっと上手く」という声が消えずに残っていた。
そんな私のピアノに、ただ「分からん」としか言わない不器用な騎士がいた。
音楽のことなど何一つ語らない彼の、その素っ気なさが、いつしか私にとって一番の救いになっていく。
上手いとも、素晴らしいとも言われたことのない演奏。
それでも「好きだ」とだけ告げられたとき、私は初めて気づく。
――誰かに評価されるためではなく、ただ弾くことそのものを、愛していいのだと。