あらすじ
高座で死んだ落語家、三遊亭圓外が目を覚ましたのは、釜茹でも針の山もない、お役所のような地獄だった。
そこでは善悪ではなく、客観的な記録と現実の食い違いである「ずれ」によって亡者を裁く、前代未聞のシステムが稼働していた。しかし、完璧な記録から人間の感情を読み取れない神々のもと、地獄には裁ききれない亡者たちがあふれていた。
ひょんなことから地獄の「弁士」に任命された圓外は、生前の業を活かし、亡者たちの記録に隠された密かな意地や諦念を拾い上げ、次々と鮮やかな人情噺に仕立てていく。
だが、他人の人生を勝手に良い噺として消費してしまう自らの業に気づいた時、圓外は大きな壁にぶつかる。そして彼自身のずれを裁く者は、地獄のどこにもいなかった。
語ることの罪と救いを描き出す、あの世の人情ファンタジー。
サゲの前に心臓が止まった落語家は、無音の地獄で誰のために語るのか。
いま、数万年ぶりの高座の幕が上がる。