あらすじ
神谷蓮司と結婚して三年目。車のスピーカーから、知らない女の声が流れた。今夜は何時に来るのかと蓮司に尋ねる甘い声の向こうで、小さな子どもが泣いていた。
蓮司はすぐにBluetoothの接続を切った。
私は前を向いたまま、一つだけ聞いた。
「私は今夜出ていけばいい? それとも明日の朝?」
ハンドルを握っていた蓮司の手が数秒止まった。
「出ていかなくていい。汐見台の家は真帆に渡す。ほかの条件は弁護士に任せる」
「わかった」
カナリア塾の最初の授業で、真紀先生から教わったことがある。関係を始める時は、自分が何を欲しがっているのか相手にわからせておけばいい。そのほうが、相手は安心する。
そして去る時には、欲しかったものへ慌てて手を伸ばさない。
蓮司の前では、私は「お金さえあれば満足する女」で通してきた。
あの年の修了試験では、一位だった。