あらすじ
わたしは白夜災未(びゃくや・さいみ)、実習法医学者である。
奇妙な「夢の中の夢」を見たあの日を境に、予言を語り、人間と会話する異形の“金魚”が、私の夢に棲みついた。
それ以来、私の人生は完全に狂い始める。
腐肉仏、骨結びのベッド、集団焼身、永昼異象――
不可解な事件が次々と起こり、悪夢の中にあったはずの荒唐無稽な光景が、一つ、また一つと現実へ姿を現していく。
やがて私は、否応なく世界の異変に適応していくことになる。
だが、その世界が突きつけてきたのは、あまりにも残酷な真実だった。
すべての願いが叶う世界。
そこには、世界の滅びを静かに待つ者がいる。
「母なる神」に縋り、滅びゆく世界の中で生き延びようとする者がいる。
輪廻に身を委ね、悪に堕ちる者がいる。
最後の火種を守り、新たな秩序を築こうとする者がいる。
運命に盲従する者がいる。
そして、それでもなお、繰り返される循環に抗い続ける者がいる。
誰もが己の正しさを掲げ、互いの理を語る。
真実と虚偽は入り混じり、善と悪の境界さえも曖昧になっていく。
――けれど、私はただの法医だ。
人の死体を見つめることには慣れている。
だが、誰が正しく、誰が間違っているのかを裁くことには、どうしても向いていない。
もし、旧世界がとうの昔に死んでいたのだとしたら、
その巨大で、あまりにも荘厳な「カレ」の死骸の上で――
私はいったい、何を見ることになるのだろうか。