あらすじ
相模真琴、32歳。職業、葬儀屋。
目を覚ましたら、そこは魔法の存在する異世界だった。
剣も使えない。魔法も使えない。
与えられた特殊能力も、神様からの説明もない。
あるのは、現役葬儀屋として培ってきた経験と――やたら荷物の多い仕事用バッグだけ。
しかも真琴が最初に心配したのは、自分の身の安全でも、元の世界へ帰れるかでもなかった。
「え、困る! 今日葬儀あるのに!!」
そんな異世界にも、当然ながら死はある。
けれど、人が亡くなれば布に包み、祈り、土へ還す。
死者を悼む心はあっても、故人のために身支度を整え、その人の人生を振り返り、家族がゆっくり別れを告げる――そんな「葬儀」を仕事にする者はいなかった。
「好きだった服があるなら、着せたらいいじゃないですか」
「死んだ者を着せ替えるというのか?」
「私がやりますよ」
身体を清め、傷を隠し、顔色を整える。
遺された品を飾り、家族から故人の話を聞く。
氷魔法を見れば遺体の保冷に使えないかと考え、
炎魔法を見れば火葬できないかと考える。
異世界に来ても、相模真琴はどこまでも葬儀屋だった。
これは、死者を蘇らせる物語ではない。
死者は生き返らない。
だからこそ、残された人がきちんと「さよなら」を言えるように。
異世界にはまだ存在しない“葬儀屋”の仕事が、少しずつ人々の送り方を変えていく物語。