あらすじ
結婚十二年目、事故で夫を亡くした牧野絵里。喪主として立った葬儀場で、彼女は自分の知らない親族と、『私も妻です』と名乗る女に出会う。
祭壇に並ぶ夫の写真は、絵里と過ごした十二年だけを切り取ったように、彼女の姿を一枚も残していなかった。女の名は白川灯子。遼介が毎晩二十三時十七分に帰っていた場所と、十二年前に死者を出した白灯寮の崩落事故を知っているという。
夫は誰を家族として記録し、誰を記録から消したのか。絵里は濡れた靴、二つ目の合鍵、青い封筒、改竄された事故報告書を手掛かりに、遼介の夜を調べ始める。これは、夫の愛人を探す物語ではない。死者が残した家族の記録を、誰のために、どこまで取り戻すのかを問う心理ミステリーである。