あらすじ
人には誰にでも、『影』がある。
ある事件の捜査中、BMI接続を続行させたことで被疑者を脳死させてしまった刑事。その判断によって一人の命が救われたにもかかわらず、彼は今も「あのとき接続を切っていたら」という後悔から逃れられずにいた。
不眠とフラッシュバックを抱えた彼が上司の命令で訪れたのは、著名な精神科医の診察室。
そこで待っていたのは――どう見ても十代の少女だった。
年齢不詳。写真嫌い。極端に人前へ出たがらない。
そしてなぜか、彼女の足元には『影』がない。
「最近、自分の影を見ましたか?」
少女には、他人の影に触れ、その精神世界へ入り込む奇妙な力があった。
そこに存在するのは記憶ではない。
現実で選ばなかった道、押し殺した感情、なれたかもしれない自分――その人間が生きなかった無数の可能性。
そんな中、街で奇妙な事件が続発する。
本人とは違う動きをする影。
自分の影に襲われたと訴える人々。
そして、主人公が影の中で目撃したのは――脳死したはずの、あの被疑者だった。
オカルトとして片づけられていた「影」の正体を追う二人の前に、やがて一人の科学者の名が浮かび上がる。
かつて「アインシュタインの再来」と称賛されながら、オカルトに傾倒したとして学界を追われ、いつしか人々の記憶からさえ消えていった天才――久世博士。
光と影。
選んだ自分と、選ばなかった自分。
それらは本当に、別々のものなのか。
これは、人間という一枚のコインを巡る物語。
■登場人物・設定
・BMI / Brain Machine Interface——人の脳内に端子を接続し、電気信号を抽出する技術。かつてあった、記憶喪失の病を根絶に至らしめた技術。現在は一般化されている。
・安堂蘭(あんどう・らん)——————精神科医。
・久世志門(くぜ・しもん)——————天才科学者。
・楽間京(らくま・きょう)——————科学者。
・原田(はるだ)———————————警部。主人公の上司。
・俺(語り部)————————————主人公。刑事。