あらすじ
私は、脇役と呼ばれることすらないような子爵令嬢だった。
前世でも、そして今世でも。
私の人生には、夏と呼べる季節が一度も訪れなかった。
だから私は、物語の中にある優しい幻想だけを抱きしめて生きてきた。
本の中に描かれる恋や奇跡だけが、私にとっての小さな光だった。
自分が主人公になれるなんて思わない。
誰かのように輝きたいとも願わない。
たとえ一瞬だけの奇跡を手に入れたとしても、
いつかそれは時の砂に埋もれてしまう。
だから――
最初から手に入れなければいい。
私の感情も。
胸の奥で鳴る鼓動も。
誰にも見せたことのない涙も。
それらは、私にとってかけがえのないものだった。
大切なものを、誰かにとってありふれたものとして扱われるくらいなら。
私は、最初から誰にも渡したくなかった。
失ってしまうくらいなら、
最初から持たなければいい。
そう思っていた。
それなのに――
心の奥では、ずっと願っていた。
誰かに、私を見つけてほしいと。
これは、
自分には「本物」と呼べる幸せを受け取る価値などないと思い込んだ少女と、
そんな彼女を見つけた二人の少女が、
互いの孤独をほどいていく物語。
自分の悲しみさえ何度も分析してしまうほど、
深く考え込んでしまう人へ。
誰にも見せられなかった感情を抱えている人へ。
喜びも、痛みも。
そのすべてが、確かに誰かに届くことを願って。