あらすじ
平成二年。
元号は変わっても、駅前の町にはまだ昭和の景色が残っていた。
県道沿いに開いた「中華飯店 平成」。
店を切り盛りするのは、商売には目が利く店主と、無口で人付き合いは苦手だが、料理のわずかな違いには妙に敏感な男――町の人から「平成の先生」と呼ばれる料理人だった。
国道沿いには、広い駐車場を持つ新しい店が増えていく。
車で店を選ぶ人が増え、昔から続く町の飲食店は、味を比べてもらう前に選択肢から外れ始めていた。
そこで始まったのが、違う店を五軒回る小さな回遊カードだった。
蕎麦屋、喫茶店、洋食屋、焼き鳥屋、寿司屋、定食屋、お好み焼き屋、そして中華飯店平成。
それまで店の名前しか知らなかった主人たちが、少しずつ客や情報を回し始める。
だが、平成三年の秋。
テレビやラジオから聞こえていた「景気の落ち込み」が、餃子一皿、コーヒー一杯、酒一杯という形で、静かに町へ入り込んでくる。
客はいる。店も忙しい。
それでも、閉店後に数える金は少しずつ減っている。
味だけでは、店は続かない。
それでも、店がなくなればすべてが終わるわけでもない。
平成の始まりを生きる、小さな飲食店と、そこにいる人々の物語。