あらすじ
イタリア・トリエステを舞台にした20代30代女性向け国際恋愛の短編小説。
前後編で完結する読み切り作品です。
東京で商品パッケージの校正・品質管理をしている29歳のユイナは、長年勤めた会社を辞める前に、一度だけ「誰にも必要とされない休暇」を取ることにした。
旅先に選んだのは、亡き祖父が若いころ訪れ、古い写真を残していたトリエステ。
到着翌朝、海へ開く大広場で祖父の写真と同じ角度を探していたユイナは、突然吹きつけたボーラに紙袋をさらわれる。中から飛び出した絵葉書を拾ってくれたのは、近所の劇場や書店の舞台照明を設計・修理する32歳のマッテオだった。
だが一枚だけ、見つからない絵葉書がある。
マッテオは「風が弱まったら探せばいい」と言うが、ユイナにとっては祖父が最後に書き残した一枚だ。
翌日、偶然再会した彼の手には、その絵葉書がある。
ところがマッテオはすぐには返さず、裏面の住所を指して言う。
「これ、今もある場所だよ」
二人はその場所を確かめに行く。
そこから、ユイナの「祖父の足跡を一つだけ確かめる旅」は、少しずつマッテオと過ごす時間へ変わっていく。
海辺のコーヒー、強風を避ける古い通り、閉館後の小劇場、夕方の岸壁。
一方、ユイナには帰国後、会社員へ戻らずフリーランスとして独立するか、それとも安定した別会社へ移るかという選択が残っている。
マッテオもまた、壊れかけた家族経営の照明工房を守るため、自分が本当にやりたい舞台仕事を何年も後回しにしていた。
二人とも、相手の人生なら簡単に言える。
自分の人生だけは決められない。
そして、トリエステの海を数千の帆が埋める秋の日、ユイナはマッテオから「ここに残って」と言われるのではなく、もっと難しい言葉を聞く。
「帰るのをやめてほしいんじゃない。君が自分で決めたところへ、ちゃんと行ってほしい」
その言葉によって、ユイナは恋愛か人生かを選ぶのではなく、初めてどちらも他人任せにしない選択をする。