あらすじ
一日五百枚の自撮り。三脚まで往復する全力疾走。ハートを一つつけるかで、さらに三分。
男の娘コスプレイヤー・結良の「かわいい」は、毎晩二十時に間に合わせるための大仕事だった。
活動を休んでいた僕は、画像生成AIと出会い、自分の顔を覚えさせる。
画面に現れたメイド姿は、現実の僕より明らかにかわいい。
でも、これは僕だと思った。
AIだとは明かさずに投稿した一枚に、届いた言葉は「おかえり」。
やがてフォロワーは一万五千人から七万人へ。
画面の僕はホテルへ泊まり、海へ出かける。僕は部屋で、指が五本あるか数えている。
十件の「いいね」で喜べた僕は、いつしか二千件、五千件を求めるようになっていた。
もっとかわいく。もっと見てほしい。
反応が少ない夜には、自分まで駄目になった気がした。
憧れのDM。好意のこもった言葉。写真集を買ってくれる人。
嬉しかったはずの「かわいい」が、少しずつ苦しくなっていく。
画像はAI。でも、返した言葉も、嬉しかった気持ちも、僕のものだった。
それなら、みんなが好きになったのは、誰なんだろう。
理想の自分を作れた男の娘が、自分の居場所に迷い始める、SNS時代のビターコメディ。