あらすじ

この世界の理は、ひとつしかない。  観測が、現実を決める。見られたものは在り、名を呼ばれたものは定まり、書き留められたものは、二度と動かなくなる。  だから、雪に触れた人間は石になる。そういう形のものとして、決められてしまうからだ。そして誰にも名を呼ばれずに死んだ者は、逆に確定を失う。生きたのか、死んだのか。愛したのか、憎んだのか。すべてが可能性の泥に溶けて、あり得た人生の亡霊を引き連れたまま、終わることができなくなる。  アベル=レギスは、世界最後の弔い人である。  その泥の中から本当の名をひとつ選び取り、自らの腕に刻む。刻まれた者は、ようやく終われる。彼の躯は、そうやって、無数の他人の名で埋まっている。自分の身体を、墓地にしているのだ。  だが、名を刻むとは、決めてしまうということだ。  選ばれなかったあり得た人生は、彼が消したことになる。  これは、救済の物語ではない。灰の降る世界を、たった一人で歩き続ける男が、誰かを終わらせるたびに、少しずつ何かを失っていく話である。

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カクヨム
カクヨム2026/09/14
  • 現在の作品黒陽黙示録アベル ― RE:NEHEMOS