あらすじ
「君のためを思って」
婚約者セドリックは、いつもそう言った。
疲れているだろうからと友人との約束を勝手に断り、必要ないだろうからと講演会への参加も取りやめる。
少し世話焼きではあるけれど、それも自分を心配してくれているからだと、伯爵令嬢エレノアは思っていた。
そんなある日、幼い頃から憧れていた王立魔術研究院から任用の話が舞い込む。
ところが学院を訪れたエレノアは、教授から思いもよらないことを告げられた。
「研究院の件は残念だったな。君なら来てくれると思っていたのだが」
知らないうちに、任用を辞退したことになっていたのだ。しかも返事を出したのは、婚約者であるセドリック。
問い詰めるエレノアに、彼は悪びれもせず笑う。
「俺が断っておいたよ。君のためを思ってね」
けれどその言葉を聞きながら、エレノアはようやく気づく。彼が見ていたのは、自分が何を望んでいるかではない。
彼が「自分にはこれが良い」と勝手に決めた未来だったのだ。
ならば今度は、エレノア自身が決めよう。
研究院で働く未来も。
これからどこで暮らすのかも。
そして――誰と結婚するのかも。
これは、善意という言葉で人生を勝手に決められてきた伯爵令嬢が、自分の未来を自分の手に取り戻すまでのお話。