あらすじ
「ヨコさん、最悪ですよ……この状況」
隣で露骨に嫌な顔をするタチバナが、俺に向けて率直な感想を述べる。それは、ワンルームアパートの玄関から流れ出る泥水を目の当たりにしたが故の嘆きであった。不自然な共用廊下の浸水に疑問を抱いた他室住人からの通報で、事件が発覚したというわけだ。
「だな……」
「この大雨の日に開け放たれた窓。どこから持ってきたのか、部屋には大量の土。泥にまみれた部屋の真ん中には、仰向けで横たわる女性の遺体ですよ……」
「おまけに、キッチンの排水溝は皿で栓をして、水を溢れさせるなんて嫌がらせ……最初から証拠隠滅のため、徹底的に部屋を汚すつもりでやってんな」
土の泥化を引き起こしたであろう、大胆に開け放たれた窓も水栓も、鑑識がカメラのシャッターを切ったのち、現場の保存を行うべく速やかに閉じられた。
何十件もの現場を担当したベテランの鑑識ですら、あからさまに嫌な顔をして、即座に物的証拠になるはずだった泥の回収を余儀なくされる。でなければ、証拠そのものが外へと流れてなくなってしまうのだから、彼らは一刻を争うしかなかった。
※警察や司法の制度確認にAIを使用しています。