あらすじ
魔導は、機構が管理している。
術の型も、詠唱の登録も、そして、裁きも。
これは、人類魔導管理統一機構が残した、四通の異端査問調書である。
町を襲った黒腐れ病で、ひとり富み続けた穀物商。
魔導の「裏の顔」に手を伸ばした、機構内部の研究員。
この二人は、たしかに闇に手を伸ばした。裁かれるべくして裁かれた者たちだった。
だが。
詠唱もなく、薬も使わず、ただ手をかざして病人を安らがせた二十六の施療師。
死にゆく者の枕辺に四十年座り続け、村人に感謝されていた糸紡ぎの老婆。
同じ罪状で裁かれたこの二人は、いったい「何」に触れていたのか。
四通の調書は、すべて同じ定型句で閉じられる。
「かくして、(地方名)に巣食う澱みと邪教の芽は、機構の法によって正しく摘み取られたり。すべては、至天の光輝たる第一の座の導きによる」
地方名のところだけを、差し替えて。
公文書は、嘘を書かない。
ただ、本当のことを書かないだけだ。
問いと答えの応酬。庇い立てする村人の証言。消し忘れられた朱書きの一行。
行間に沈んでいるものを、どうか拾い上げてやってください。
※査問調書四通と査問規程を翻刻した、資料集の体裁の読み物です。
※エルデーンの在世文書シリーズですが、本作単体でお読みいただけます。
※異端審問・疫病・処刑といった暗い題材を扱いますが、直接的な残酷描写はありません。