あらすじ
貧しいフォンターナ子爵領を、幼い弟に代わって守るルチア・フォンターナ、二十三歳。
領地にこれといった特産はなく、財政は苦しい。
王都へ新品種の果物の販路を探しに出たルチアは、そこで魔物討伐から帰還した若き英雄、レオナルド・モンテフェルトの凱旋を目にする。民衆の歓声を浴びる、完璧な英雄。
まさか、その英雄と自分が結婚することになるとは思わなかった。
「英雄殿と結婚してもらいたい」
国の英雄となったレオナルドは、騎士を辞め、王都を離れて静かに暮らすことを望んでいた。戦いの中で心も身体もすり減らし、もう剣を握りたくないと願っていたのだ。
けれど英雄をそのまま引退させれば、国が彼を冷遇したと思われかねない。それに英雄を手放したくない。そこで王宮が考えたのが、ルチアとの契約結婚だった。
ルチアにとっても、英雄の名声や人脈は、領地にとって大きな財産になる。田舎の貧乏な領地では大手商会に相手にもしてもらえない。四年後に予定される弟の学園への入学に向けて、資金を用意しなければならない。
こうして二人は、お互いの事情のために、弟が成人するまでの十年間の契約結婚をすることになる。
「剣は握らない」
「領で握るのは鍬です」
英雄を戦力として頼るつもりなどないルチアだったが、レオナルドは鍬どころか、掃除も洗濯もまともにできない。王都では完璧な英雄だった男は、田舎領地では何もできない男だった。
けれど、子どもたちの無尽蔵の体力についていけるので、子守だけはできる。
「兄様、一緒に遊びに行きましょう!」
自然に囲まれ、英雄としてではなく、一人の人間として過ごすうち、レオナルドは少しずつ、失っていたものを取り戻していく。
そしてルチアもまた、彼の名声だけではなく、抱える傷を含めて、その人自身を見るようになっていく。
新品種の果物の売り込みに集中したいルチアだったが、英雄や騎士団を支援していた令嬢が、英雄に子爵領は似合わないと乗り込んでくる。
「英雄様にふさわしいのは、華やかな王都ですわ」
さらに、王宮や騎士団は、英雄の復帰を望み――
これは、人生を諦めかけた英雄と、最初から勝つことを諦めていた領主代理が、自分の望む人生を選び直す物語。
光の中にいられなくても、人生は続いていく。