あらすじ
一つ年上の幼なじみ、柊琴葉。
幼い頃からいつもそばにいた彼女は、橘夏樹にとって誰よりも近くて、誰よりも特別な存在だった。
高校時代、写真に夢中になる琴葉と、お菓子作りを始めた夏樹。
いつしか二人は互いを異性として意識するようになる。
けれど、その想いを言葉にできないまま、琴葉は写真の道を追って地元を離れてしまう。
「行かないで」
本当はそう言いたかった。
それでも夏樹が伝えられたのは、彼女の夢を応援する言葉だけだった。
やがて二人の連絡は途絶れ、それぞれ別の場所で大人になっていく。
そして数年後――夏の終わり。
仕事で故郷へ戻った夏樹は、街角でカメラを構える見覚えのある女性を見かける。
声をかけることもできずにすれ違ったその人は、忘れたことなど一度もなかった琴葉だった。
写真展で果たす、本当の再会。
話したいことはたくさんあるのに、昔のようには話せない。
それでも、途切れていた時間を取り戻すように、二人は少しずつ距離を縮めていく。
呼び方ひとつに迷い、
たった一通のLINEに心を揺らし、
「会いたい」の四文字さえ送れない。
そして、二人が離れていた年月には、夏樹の知らない琴葉の秘密があった――。
風に言えなかった想い。
波に消えていく言葉。
赤信号の向こうに止まったままの時間。
これは、好きだから黙ってしまった二人が、
もう一度出会い、
「好きだから、ちゃんと伝える」
ことを覚えていくまでの物語。
あの夏に届かなかった想いを、
今度こそ、君へ――。