あらすじ
「父上が決めた婚約に、俺の意思はない。俺は男爵令嬢と結婚する」
公爵家の嫡男ゼヴェリン様は、婚約者の私にそう言った。私はアンナリーゼ、伯爵令嬢で二十四歳。
「分かりました。閣下がお決めになった婚約ですので、閣下と改めてお話しします」
公爵閣下の書斎の扉を叩いてすぐに、私は公爵家の後妻になることが決まった。
閣下はローラント様、四十一歳。奥様を亡くして八年、息子の嫁にと私を選んだ人だった。
「……母上?」
「はい。息子の躾は、母の務めです」
男爵令嬢との結婚には、母の許しが要る。小遣いも、夜会の同伴も、屋敷の鍵も。
「父上、正気ですか!」
「お前が捨てた女だ。私が拾って何が悪い」
毎晩、書斎で閣下と屋敷の帳簿を見る時間が、いつのまにか一日でいちばん長くなった。
「アンナリーゼ、あの男爵令嬢が面接に来たわ。落としていい?」
社交界で最強の大伯母様が、面接官の席で足を組んでいる。
息子よ、母は許しません。あなたがちゃんと、母に頭を下げるまでは。