あらすじ
八年前、日本中の霊山が「開いた」。
見慣れた山に重なる、もう一つの山。そこでは、登って生きて還った高さが人の力になり、頂の主に勝てば「験」と呼ばれる異能を継ぐ。
沢渡迅は、荷を運ぶ担ぎ屋だ。
認定された高さは二四〇〇。だが験は一つも持たず、頂を踏まずに荷を下ろして帰る。三年前、兄を山に残して下りた日から、その数字は止まっている。
十一月の裏高尾。日没を告げる鐘が鳴っても、若い兄弟の手形が戻らなかった。
救助本隊の到着を待てば、夜が深まる。迅は自前の札と装備を揃え、道の変わる山へ入る。
「俺はもう登らない。担ぐだけだ」
そう言う男の仕事は、今日も誰かを生きて還すことから始まる。