あらすじ
歴史は、検証されることになった。
二〇八〇年。六十年前の日本が、人ひとりの人生ごと再現されている。ダイバーは過去へ戻り、別の人格を背負い、その時代を生きて、記録との差だけを持ち帰る。規則は一つしかない。歴史を変えてはならない。結末は、決まっている。
結城航は、その募集に応じた大学一年生だった。
現実と、変えられない過去。往復するたびに、置いてくるものと持ち帰るものが増えていく。
箱へ降りてくるのは航だけではない。国家の思惑が降り、資本の計算が降り、人間を超えたいという私欲が降りてくる。全員が別の名前と別の顔を持ち、互いが誰であるかを知らない。
同じ時代を歩いた相手の本当の名前を、航は知らない。
そして、箱を回しているのは人間ではなかった。
過去は変えられない。変えられない場所で、青年は返せないものを返そうとする。