あらすじ
誰もが大地から力を汲み上げる世界に、少年は落ちた。
ここでは彼だけが、火花ひとつ起こせない。そのかわり、彼だけが落ちなかった。地に繋がれていない者は、地に繋ぎ止められてもいない——ただ、それだけのことだった。
「奪われた石を取り返せば、元の世界へ帰してやろう」
王の約束に全体重をかけて、少年は敵国の空を飛ぶ。村の数を数え、道を測り、父がくれた腕時計で行軍の日数を割る。早く、正確に。それが帰る日を一日でも手前に引き寄せると信じて。
やがて、その数字が戦を始めた。
焼け落ちる村。指先に豆粒ほどの灯りしか点せない少女。そして、帰り道の本当の意味——門が開くとき、彼の後ろから通るものがある。
根が下りるにつれ、少年は空を失っていく。この世界に自分の場所ができるとは、そういうことだった。
帰らないことと、忘れることは、違う。
どこにも合わない針が、遠い世界の時を刻み続ける。