あらすじ
王国の首都エストリード。死体の"声"を聞く代わりに、死体の"舌"を見る仕事がある——王立検屍院。そこに奉公に出された薬師見習いのティル(16)は、無口・無愛想・毒草オタクの三重苦を抱えた少女。彼女の仕事は、検屍官の採取した胃の内容物や舌の変色から毒の有無を判定する、誰もやりたがらない裏方である。
問題は上司だ。検屍院の院長ヴィオラ・リッチェ(29)は、「自分の解剖刀で夫を三人殺した」「死体と食事をする」「笑いながら心臓を摘む」と都中で噂される、悪名轟く"死体女"——のはずが、出会ってみれば解剖刀の代わりに蜜飴を舐め、「死体より眠いですわ」と泣き言を言う、やる気ゼロの変人だった。
そこへ飛び込んだのは、王立歌劇場の看板歌姫ローゼの服毒死。「嫉妬に狂った振付師による毒殺」という、出来すぎた噂が都を駆け巡る。しかし死体の舌先に残った微かな青い染みを見たティルは、呟く。
「これ、毒じゃない。——毒に"見せた"だけです」
歌姫はなぜ死に、誰がその死を「毒殺」と歌わせたかったのか。噂と真実が入れ替わる都で、口の悪い薬師と、悪女の皮をかぶった検屍官の、舌先から始まる謎解きが幕を開ける。