あらすじ
古都の外れ、夜しか開かない食堂「つきしろ」。 店の主・灯夜(とうや)は、人の未練が「におい」で分かる娘。焦げた砂糖、雨に濡れた畳、乾いた墨——未練は必ず何かのにおいに化けて、店の暖簾をくぐってくる。
その未練を「解く」のが居候の青年・万之介(まんのすけ)の仕事だ。正体不明、食い意地だけは立派な男は、実は文字と約束を喰らうあやかし——「字喰い」である。遺書の一文字、破られた契約書、読まれなかった恋文。万之介は人が残した「言いそびれたことば」を喰らい、その代償として記憶の欠片を吐き出す。
だが喰うだけでは未練は消えない。吐き出された欠片のにおいを灯夜が嗅ぎ分け、由来を推理し、その人物の「食べたかった一膳」を再現する。食べる、伝わる、成仏する——それが「つきしろ」の流儀だった。
ある夜、店に持ち込まれたのは、三十年前に出されたまま誰にも読まれていない、宛名のない手紙。封を切れば中身は真っ白。しかし灯夜の鼻は、紙から「血の混じった味噌汁」のにおいを嗅ぎ取って——。
これは、言いそびれた者たちの、最後の晩餐の物語。