あらすじ
橘蓮、三十四歳。小さなインドカレー店を営み、香辛料の配合と火加減だけは誰にも負けなかった。
閉店後の厨房で、最後の一皿を煮込んだ夜。蓮は見知らぬ世界へ転生する。
そこは、風から匂いが消え、食事から味が消え、魔獣さえも香りを失いつつある世界だった。
転生先の辺境都市で蓮が授かったのは、剣でも火球でもない。
香辛料を重ね、煮込み、食べる人の意志とつないだときだけ発動する、未知の調理術《香脈調律》。
クミンは道を示し、カルダモンは記憶を呼び、唐辛子は仲間の足を止めない。ひと皿のカレーが、魔獣の群れを崩し、枯れた畑を生かし、敵国との境界まで変えていく。
ただし、香りを強くするほど、蓮自身の嗅覚は削れていく。
香りを奪う白い仮面の教団。世界の地下を流れる《香脈》。そして、前世の店に残したはずの真鍮のスパイス箱。
失ったものを取り戻すためではなく、食べる人が自分の味を選べる世界を作るために。
元インドカレー屋の異世界無双は、辺境の小さな鍋から始まる。