あらすじ
オランダ・テセル島を舞台にした20代30代女性向け国際恋愛の短編小説。
前後編で完結する読み切り作品です。
九月下旬。東京でWebデザイナーとして働くナツキ、29歳は、一週間だけテセル島に滞在する。
会社を辞めたいわけではない。けれど、三年間任されてきた仕事が次々と「効率化」の名で型にはまり、自分が何を面白いと思ってデザインしていたのか分からなくなっていた。帰国後には、新設チームへ移るか、今の仕事を続けるかを答えなければならない。
到着翌朝、強い海風の吹くデ・コックスドルプで、ナツキは一枚の古い活版印刷の絵葉書を買う。表には、海へ開いた湿地デ・スルフテル。裏には住所も文章もなく、小さく「帰らなかった景色」とだけ印刷されている。
店を出た途端、風にさらわれた絵葉書を拾ったのが、島で小さな活版印刷工房を営むヨリス、33歳だった。
「これ、僕が刷った」
ところが彼は、なぜその言葉を印刷したのか説明しない。
翌日、ナツキがデ・スルフテルへ行くと、そこにヨリスがいる。
その次の日には羊のいる堤防で。さらに夕暮れには北端の赤い灯台の近くで。
偶然ではない。ヨリスは毎年秋、自分のためだけに「島で残したい十二の景色」を選び直していた。
ナツキはいつしか、その十二番目を一緒に探すことになる。
問題は、ヨリス自身が今年限りでその習慣をやめようとしていること。そしてナツキもまた、帰国後の生活を決めなければならないことだった。
二人が探しているのは、「残すべき景色」なのか。
それとも、もう終わると思っていた時間を続ける理由なのか。