あらすじ
生まれて間もなく児童養護施設の前に捨てられ、親の顔も、本当の名字も知らずに育った田中公児、二十三歳。
高校卒業後、行き場のなかった彼を拾ったのは、風俗街「あかね楽天地」を仕切る社長だった。
それから五年。一九八三年。
個室型温浴施設の黒服として働いていた公児は、突然、経営不振に陥った老舗「あかね御殿」の店長を命じられる。
帳簿は歪み、店は荒れ、従業員の待遇は削られ、前店長は不可解なものを残して消えていた。
公児がしたことは、ただ一つ。
おかしくなったものを、あるべき場所へ戻すこと。
数字を確認し、店を掃除し、待遇を正し、守るべき線を決める。
その積み重ねによって、御殿は少しずつ立ち直っていく。
だが、公児には分からないことがあった。
人は、数字だけでは動かない。
正しいことが、いつも正しい結果を生むわけでもない。
そして、自分自身の気持ちだけは、帳簿にも規則にも書かれていない。
これは、根を持たずに生まれた一人の男が、夜の街で働き、人と出会い、仕事を覚え、やがて自分の人生に根を張るまでの物語。
『根のない男』
昭和の風俗街を舞台にした、店舗再建と人間再生の長編小説です。