あらすじ
王立魔術院の宮廷魔法師・ルナは、三十二歳にして「枯れ魔法師」の烙印を押されかけていた。魔核の出力が基準値を下回り、院長から半年以内に回復しなければ引退と告げられた。十五歳から十七年間、魔法だけで生きてきたルナには、魔法師以外の自分が想像できなかった。
錬金術院の奥に、深夜も明かりのついた研究室があった。老化した魔核を細胞レベルで若返らせる「細胞還元術」を十年研究してきた二十八歳の錬金術師、クロード・アシュ。ルナはその夜、扉を叩いた。
クロードは即答しなかった。「なぜ諦めないのか」と問い、ルナが「諦める理由がないから」と答えたとき、初めて「やってみる」と言った。条件は二つ――嘘をつかないこと、途中で止めないこと。
施術は週三回、深夜の研究室で続いた。ある日クロードが言った。「焼けているのではなく、眠っている」。戦場での連続使用で魔核の細胞が自己保護のために休眠に入っていた。眠っているなら、起こせる。その言葉が、ルナの何かを変えた。
深夜の研究室に二人の時間が生まれた。クロードが資料を読み、ルナが記録をつける。特別なことは何もなかったが、同じ空間にいることが自然になっていった。
魔核の出力が七十パーセントまで回復した頃、院長がクロードに「非公認術の中止」を命じた。ルナは院長に「待ってください」と言った。十七年間、一度も反論したことのなかった相手に、初めて。
細胞質置換施術の日。クロードが「術者と患者の信頼が安定の鍵だ」と説明したとき、ルナは「あなたを信頼しています」と言った。言葉にするつもりはなかった。でも、出た。
施術の中でルナは戦場の記憶に触れた。魔核が覚えていた恐怖。それに向き合い、解放した瞬間、魔核の出力が急上昇した。施術は成功した。気づくとクロードが倒れていた。消耗が限界を超えていた。今度はルナが彼の傍に座った。
半年後、ルナの魔核は九十パーセントまで回復し、クロードの研究は王立院に正式認定された。研究室の窓から城を見ていたルナに、クロードが近づく。「あなたが諦めなかったから」とルナが言い、「あなたが諦めなかったから」とクロードが返す。
魔核が、温かく揺れた。