あらすじ
辺境のクリオ術師の工房で一人になったメア・フロストのもとに、王宮からの使者が来た。依頼は「深度Ⅴ・十七年封印の王子の蘇生」。師匠のヤロウが「深度Ⅴを解かせるのはお前しかいない」と言い残していた言葉を胸に、メアは王都へ向かった。
王宮の封印室。巨大なクリオ結晶の中に、六歳のままの顔をした「二十三歳の王子」が眠っていた。リアからの反発、エルダ王妃の静かな希望。そして期限——あと三ヶ月で封印が自壊を始め、その時点でクレイスは消える。「解かせば死ぬかもしれない。でも解かさなければ絶対に死ぬ」。メアは「やります」と言った。
施術が始まった。生命波を送り込み、十七年分の静寂の中にある、かすかなクレイスの生命波を探す。子供の声のような振動。施術中にメアは、クレイスが六歳のとき見ていた世界の断片を感じるようになった。謀反の夜の恐怖。「眠れ、必ず迎えに来る」という騎士の声。その騎士はもう死んでいた。クレイスはずっと、来るはずのない人を待って眠り続けていた。
施術が深まるにつれ、メアの消耗も大きくなった。リアが少しずつ信頼を寄せ、エルダ王妃が夜ごと傍に来て、メアを支えた。
最終施術の夜。封印の核心部に届いたとき、意識の交信が起きた。「誰かいるか」とクレイスが問いかけてきた。「います。来ました」とメアが答えた。封印が崩壊を始め、同時にメアの生命波が危機的に低下した。リアがメアを支え、エルダが息子の名を叫んだ。封印が崩れた。クレイスが目を開けた。最初に見た顔は、メアだった。
十七年ぶりに目覚めたクレイスは、六歳の記憶を持ったまま、二十三歳の体に入っていた。混乱と悲しみと、少しずつの回復。王妃との再会。騎士はもう来られないと知ったとき、クレイスは長い間黙っていた。それからメアを見て「お前が来た」と言った。
三ヶ月後、辺境に戻ろうとするメアをクレイスが引き止めた。「また会える?」という問いと、「また凍らないと呼べないのか」という言葉と、ふたりの笑い。春の王宮で、封印室に最後に入ったメアが空になった結晶を見る。そこにあったものが、もうない。そこにいた人が、今は外にいる。
それだけで、十分だった。