あらすじ
世界各地にダンジョンが出現してから三十年。
人々が魔石を採掘し、探索者がモンスターと戦い、ダンジョン配信が人気コンテンツとなった現代。
そんな華やかな世界とは無縁に、黒瀬教十郎、四十五歳は今日もダンジョンの地下で働いている。
仕事は、魔力配管の点検、循環ポンプの整備、隔壁の動作確認、漏水対応。
要するに――ダンジョンの設備管理だ。
ある日、人気配信者の少女が立入禁止の設備区域へ侵入する。
彼女を追い返そうとした教十郎は、巡回中のわずかな異音から、中央監視にも表示されていない異常を察知した。
「……これ、止めないとまずいな」
直後、魔力配管が暴走。
本来いるはずのない高ランクモンスターまで出現し、現場は大混乱に陥る。
だが教十郎が気にしているのは、モンスターではなかった。
「そいつは任せる。俺は元弁閉めてくる」
探索者が魔物と戦う横で、教十郎は工具を持って設備を直す。
本人にとっては、いつもの仕事。
ところが、その一部始終が配信されてしまった。
《このおっさん何者?》
《なんで警報が出る前に異常分かった?》
《世界救ってない?》
本人の知らないところで、“謎の設備員”として教十郎は注目されていく。
そして彼が見つけた小さな設備異常は、やがてダンジョンそのものを崩壊させる大事故へとつながっていく。
これは最強の探索者の物語ではない。
壊れているなら直す。
異音がするなら調べる。
危険なら止める。
ただそれだけを三十年近く続けてきた設備員が、いつもの仕事で世界の危機を防ぐ話である。