あらすじ
東京湾の潮風が吹き付ける臨海部のめっき工場。熟練職人の真壁錬と弟子の坂口拓海のもとに、一本の大型トラックが鋼管を搬入してくる。いつもの気さくな運転手ではなく、現れたのは不穏な気配を漂わせる見知らぬ男・志賀だった。
荷台に積まれた六本の鋼管を見た坂口は、その表面に広がる爬虫類の鱗のような「巨大な結晶模様」に強い違和感を抱く。四百五十度の溶融亜鉛が冷え固まる過程で生じる結晶は、本来これほど巨大化するはずがないのだ。
「現場の現象は、マニュアルの外で起きる」――金属の性質を知り尽くした真壁は荷受けを保留し、独力で検査を開始する。クレーンで吊り上げた鋼管が不自然に傾いたとき、中空であるはずの鉄パイプに隠された戦慄の真相と、雨に煙る工場を舞台にした命懸けの攻防の幕が上がる。