あらすじ

人の体の中に、もう一つの王国がある。「ミトコンドリア王国」が生み出すエネルギーこそが、人が動き、考え、生きることを可能にしている。そしてこの王国を統べる女王の資質は、必ず母から娘へと受け継がれる。父方の血では、この炎は継げない――これが「炎の法」だった。 現女王が急逝した。残された継承者は十九歳のマリア一人。幼い頃に母を亡くし、女王になる覚悟も自信も持てないまま、王国のエネルギーが底をつきかけている今、選択の余地はなかった。 大臣ソフィアはマリアに「試練の旅」を命じ、護衛として「炎無き者」と呼ばれる騎士・ジウを選んだ。ジウの母は炎の一族の傍系だったが、彼に受け継がれた炎は「継承に不十分」と判断され、近衛を追われた経緯がある。炎を持てない者として外縁を生きてきた男だった。 旅の中で、ふたりは少しずつ本音を零していく。マリアは「女王になりたくない」と告白し、ジウは「炎がなくても命は守れる」ことを身をもって示す。試練は三段階。エネルギーの生成、外からの共生、世代を越えた継承――それぞれがミトコンドリア王国の本質を問うものだった。ジウはどの試練にも直接参加できないが、マリアが倒れかけるたびに別の方法で支え続けた。 旅の終盤、記録が明らかになる。ジウの体内には「完全には消えていない」母のmtDNA痕跡が残されていた。烙印は、真実ではなかったかもしれない。 最終儀式の夜、マリアの炎が危機に瀕したとき、ジウが炎に反応した。「炎無き者」が女王の炎に手を伸ばした。理屈では説明できない反応が、「炎の法」を問い直す瞬間となった。 「あなたが女王になった後、私は何になるのか」というジウの問いに、マリアは答えた。「あなたがいなければ、私はここに来られなかった。それは炎じゃないの?」 女王になったマリアが最初にしたことは、「炎の法」の解釈を変えることだった。「継承は母から娘へ。しかし守ることに炎の有無は問わない。」ジウの烙印は、女王の権限で正式に消された。

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小説を読もう2026/09/13
  • 現在の作品ミトコンドリア王国の、最後の女王