あらすじ

静寂に包まれた私立図書館の閲覧室。 帝大の貧乏書生である「私(春さん)」の日課は、謎の良家の令嬢・秋雨(あきさめ)と過ごす時間を、ひそかに硬貨に換算して自嘲することだった。 週に三度、一回三時間。下宿代と比較すれば、彼女と同じ空気を吸うために費やす時間は莫大な額面になる。 「安いものだ」――そう嘯くことでしか、彼は自分の胸の内で暴れ出す得体の知れない感情の奔流を抑え込むことができなかった。 なぜなら秋雨は、いつだって無邪気な好奇心と、隠しきれない挑発的な光を宿した瞳で、彼の理屈の防壁を軽々と揺さぶってくるからだ。 「私は、春さんのお求めになるものに、なれますかしら?」 知識こそが最大の財産であり、資本主義の世において金と信頼こそが全てだと信じる春さんは、彼女の純真さを冷淡な言葉で切り捨てようとする。経済学の講義めいた理屈を並べ立て、「等価交換の原則」を持ち出しては、愛などという不確かな幻影を否定してみせる。 しかし、賢ぶったインテリの武装など、彼女のまっすぐな恋心の面前ではあまりにも無力だった。 「あなたが好きですもの」 その一言から始まったのは、知性の遊戯か、それとも危険な賭博か。 耳を赤く染めてそっぽを向く不器用な書生と、温室育ちでありながら猛然と懐に飛び込んでくる令嬢の、言葉と熱のデッドヒートの行方は——。

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カクヨム2026/09/13
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