あらすじ

凍結保存技術が医療の一翼を担う異世界。「クリオ封印」とは意識を停止させ、肉体の時計を完全に止める技術であり、不治の病や重大事故の際に用いられる。封印中の人体は老いず、傷つかない。しかし「蘇生」は封印よりもはるかに難しく、成功するまでに10年、20年、場合によっては永遠に蘇れない者もいた。 フロンティア蘇生研究所の最高技術師・ミズカ(61歳)は、その分野の世界的権威だった。彼女の動機はただ一つ。38年前、事故によってクリオ封印された幼なじみの青年・ルカを、自分の手で目覚めさせること。 23歳の春に始まった研究。最初の10年は失敗ばかりだった。30代では成功率が少しずつ上がったが、ルカの封印レベルは「深度Ⅴ」という最難関で、技術が追いつかなかった。40代でついに「深度Ⅳ」の蘇生に成功。50代には「深度Ⅴ」の臨床例を積み重ね、61歳の今日、成功率98.7%まで来た。 蘇生の日、封印カプセルが開くと、そこには38年前のままの顔をした23歳の青年がいた。「……ミズカ?」ルカの最初の一言は、疑問符だった。目の前の白髪の女性が、自分の知っているミズカだとは、すぐには信じられなかった。 ルカにとって、事故は「昨日」だった。だがミズカにとって、38年は「人生そのもの」だった。恋愛も、結婚も、自分の人生のほぼすべてを、この研究に費やしてきた。 蘇生後のルカは、この38年後の世界に戸惑いながらも、少しずつ現実を受け入れていく。ミズカの老いた手を見て、テオという男性がずっと彼女を支えてきたことを知り、自分のために失われた38年という時間の重さを理解する。「俺のせいで、お前の38年が……」 ルカはミズカに告白しようとする。しかし自分は23歳で、彼女は61歳。その非対称な外見に、言葉が出なかった。一方ミズカは「ルカには若い未来がある」と身を引こうとする。ふたりのすれ違いは、愛情の深さゆえの遠慮だった。 転機は「封印夢記録」の発見だった。蘇生技術の副産物として、封印中の脳活動の一部が夢として記録されていることが判明。38年分の夢の記録を解析すると、ルカは凍結中も繰り返し同じ夢を見続けていた。ミズカを呼ぶ夢を。 「遅かった、ではなくて。やっと来たね。」ミズカの言葉は、38年間の研究の終わりであり、ふたりの始まりだった。

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小説を読もう2026/09/13
  • 現在の作品三十八年後に、あなたを蘇らせる