あらすじ
二十六歳のノアには、子どものころから、ときどき奇妙な「声」が聞こえていた。
七歳の夏、歩道橋で。
十五歳のとき、家族で訪れた山で。
ノイズに混じった、意味のわからない声。
そしてその場所では、数日後、災害が起きた。
やがて気象や地震に関するデータを扱う仕事に就いたノアは、十一年ぶりにその声を聞く。
その直後、大地震が起きた。
死を覚悟したノアを救ったのは、激しく揺れる床の上に裸足で立つ、見知らぬ男だった。
「お前は、まだだ」
それを境に、ノアは「声」だけでなく、人ならざる者たちの姿まで見るようになる。
洪水の中に立つ女。
暴風の中で微動だにしない男。
死にゆく者を見つめる黒衣の女。
そして、生まれたばかりの赤ん坊にも、感染症に苦しむ人々にも、同じ眼差しを向ける白い服の少年。
彼らは神なのか。
災害は、人間への罰なのか。
やがてノアは、彼らに問いかける。
人の命は、大切ではないのか、と。
返ってきたのは、あまりにも単純な問いだった。
「では、蚊の命は?」
人間は、命を愛する。
命を守る。
命は大切だと言う。
その一方で、ある命を食べ、ある命を守り、増えすぎた命を減らし、害のある命を殺す。
では――
人間だけは、なぜ殺してはいけないのか。
これは、人類を裁く神の物語ではない。
人間を憎んですらいない「何か」と、一人の人間が、生命について話をする物語。