あらすじ
涼国の片隅、後宮の下働きとして「毒見女官」を務める麦(むぎ)は、目立たず騒がず、ただ静かに三度の飯にありつければそれでいい――という、実に地味な人生観の持ち主だった。
ある日、彼女の元に舞い込んだのは、とんでもない話。次代の寵妃候補として選ばれた名家の娘・芍薬(しゃくやく)と瓜二つだというだけの理由で、その身代わりとして後宮入りせよという命令である。
「候補に選ばれた娘は、三代続けて祝言の前に毒殺されている」――そんな不穏な噂の真っ只中に、地味に生きたいだけの毒見女官が代わりに放り込まれることになったのだ。
慣れない衣装、慣れない作法、そして初夜から早々に仕掛けられた本物の毒。かろうじて生き延びた麦の様子に、後宮の内情を統べる美貌の高官・一慎(いっしん)は違和感を覚える。
「候補者の芍薬殿は、毒に耐性がおありのようだ。……それとも、何か他に理由でも?」
地味な人生を望んだ女官の、まったく地味ではない後宮生活が、こうして幕を開ける。