あらすじ
名前も知らない、夜のバー。
古いランプが揺れる店の隅で、ひとり電気ブランを飲む男がいた。
初めて会ったはずなのに、なぜか懐かしい。
グラスを持つ指先も、少し古風な話し方も、ずっと前から知っているような気がする。
思わず声をかけた私に、男は不思議なことを尋ねた。
「今日は、いったい何年ですか?」
冗談だと思って笑う私。
けれど彼が語る昔の街の話は、まるで昨日の出来事のようだった。
電気ブランを口にするたび、ピリピリ、ビリビリと胸の奥に走る、不思議な感覚。
これは恋なのだろうか。
その夜を最後に、彼とは会えなかった。
やがて記憶さえ薄れ始めたころ、私は古い家族のアルバムを開く。
何十年も昔に撮られた、一枚の白黒写真。
そこには――あの夜の彼が写っていた。
時を越えて出会った二人と、一杯の電気ブランをめぐる、甘くて少しせつないショートショート。