あらすじ
戦火の街・沙羅の街で、両親を亡くし呪術で生計を立てていた娘・常磐。誰からも遠巻きにされ、孤独に生きていた彼女の前に現れたのは、皮肉げに笑う一人の男・峡だった。
「一緒に来てくれないか」
生まれて初めて誰かに求められたその言葉に、常磐は迷わず頷く。与えられる衣食住、教えられる夜の温もり、そして「風狼」を生み出す術を教えるたびに向けられる賞賛——それだけが、彼女のすべてになっていく。
けれど、常磐が知らないうちに、彼女の身体は依り代である孔雀石へと、少しずつ、少しずつ同化していた。
母の遺した言葉。
「何かと同化してしまったら、人間ではなくなってしまうから」
その警告は、もう届かない。
これは、優しさだと信じたものが、静かに己を石に変えていった娘の物語。
そして、最後まで名前を呼んでもらえたことだけを、幸福だと思い込んだ女の、永久に変わらない記憶。