あらすじ
毎朝五時四十五分、小野寺結衣は鏡の前でもう一人の自分をつくる。
窓口で理不尽な怒りをぶつけられても、表情ひとつ動かさずにいられるのは、そこにいるのが「結衣」ではなく、厚い化粧の下に隠れた「誰か」だからである。
きっかけは、病室で母が遺した最後の言葉だった。
「人前に出るときは綺麗にしていなさい」
それを守り続けるうちに、化粧はいつしか鎧になり、鎧の下で本当の自分がどこにいるのか、結衣自身にも分からなくなっていた。
ある雨の夜、突然の夕立に転び、必死に隠してきた素顔が崩れた化粧とともに雨の中に晒されてしまう。
そこに駆け寄ってきたのは、職場で静かに彼女を見つめ続けていた同僚、高橋だった。