あらすじ
14歳の翠は,幼なじみの湊と家族ぐるみで過ごす鎌倉の海や放課後の帰り道を当たり前のように共有してきた。
「また明日」と言い合い,「来年も海へ行こう」と約束する。
そんな何気ない日常の中で翠は少しずつ,湊がただの幼なじみではなく自分にとって特別な存在になっていることに気づきはじめる。
しかしある日,湊は学校で倒れ,そのまま日常は静かに形を変えていく。
病院に通い,空いた席を見つめ,短いメッセージを何度も読み返しながら,翠は「大丈夫」という言葉を信じようとする。
しかし,未来を約束するたびに,その言葉は少しずつ重くなっていった。
やがて湊は帰らない人になる。それでも翠は,その現実を受け入れられない。学校へ行き,湊の席を見て,返事のないスマートフォンを開き,誰もいない部屋で話しかける。そんなふうに昨日までと同じ日常を続けようとするほど,翠の心は静かに壊れていく。
湊の部屋で見つけた1冊のノートには,死への恐怖,神への怒り,翠に言えなかった想い,そして「来年も海に行きたい」という叶わない約束が,乱れた文字で残されていた。
それは翠を救う言葉ではなく,湊のいない現実からさらに遠ざける最後の傷口だった。
誰もいない海に立ち,翠は約束の続きを抱えたまま,静かに波打ち際へ向かっていく。