あらすじ
ポルトガル・ヴィラ・ヴェルデを舞台にした20代30代女性向け国際恋愛の短編小説。
前後編で完結する読み切り作品です。
東京で書籍校正をしてきた32歳の日本人女性・リサは、勤めていた出版社を辞めたあと、「次も会社員になるか、フリーランスとして働くか」を決められないまま、三週間の休暇でポルトガル北部ミーニョ地方へやって来る。
旅先にヴィラ・ヴェルデを選んだ理由は、以前校正した工芸書で見た一枚の写真だった。白い布いっぱいに鳥や花、恋の言葉を色糸で刺した、この地方の**「恋人たちのハンカチーフ(Lenços de Namorados)」**。
宿に着いた日の夕方、リサは中庭の石壁から風に飛ばされた一枚の白いハンカチーフを拾う。そこには鮮やかな花と鳥が刺繍されているのに、文章だけが途中で止まっていた。
取りに現れたのが、古い石造住宅の修復をしている34歳のポルトガル人、ルイ・ファリア。
「完成してないの?」
そう尋ねるリサに、ルイは布を受け取り、
「まだ、最後の一語を決めてないらしい」
と言う。
持ち主は、宿を営みながら刺繍を続けるルイの伯母・テレーザだった。
その夜からリサは、朝食のテーブル、石造りの路地、収穫祭の準備、川沿いの散歩、閉店前のパン屋と、なぜか毎日のようにルイと時間を重ねていく。
ところがリサに東京から仕事の誘いが届く。回答期限は旅の最終日。
一方のルイもまた、「この土地に残ること」を大切にしすぎるあまり、本当は外へ広げたい仕事を何年も先延ばしにしていた。
どちらかが相手の人生を正解へ導くのではない。
一緒に歩くうちに、自分が何を恐れて選択を止めていたのかだけが、少しずつ見えてくる。
そして帰国前夜。
テレーザが完成させたハンカチーフの最後の一語を見たとき、リサは「残るか帰るか」ではなく、これからもルイと会える人生を自分で選び始める。