あらすじ
この国では、貧しき者から牛になる。
牛になれば、人頭税を払わなくていい。
食費も安い。仕事もある。
だから人は、自ら牛になる。
クルト・レンは、人を牛に変える転換吏だ。
三年前、彼の母も牛になった。
今では毎朝、母のために三寸の藁を刻み、役牛として働く母の稼ぎで暮らしている。
そんなクルトのもとへ、十六歳の少女ミレが転換を申し出る。
理由はひとつ。
「妹と弟に食わせるため」
申請は合法だった。
拒む理由はない。
だが、ミレの飼い主になる男は、これまで三頭の牛を働かせすぎて死なせていた。
それでも男は言う。
「私は法を破っていません。一度も」
誰も法を破っていない。
少女も、自分で選んだ。
だからクルトは、彼女に告げなければならない。
「牛になれ」
これは、人を牛に変える側にいる男が、初めて「削るべき名前」を選ぶ物語。