あらすじ
結婚八年目。
桐生直哉は、妻の香澄と大きな喧嘩もなく、平穏な結婚生活を送っているつもりだった。
少なくとも、妻が別の男と十か月近く不倫していると知るまでは。
香澄が「大学時代の友達と温泉旅行に行ってくる」と告げた日、直哉はいつも通り笑って彼女を送り出した。
「楽しんできなよ」
けれど直哉は知っていた。
旅行相手が友人ではなく、既婚者の相沢亮介であることを。
探偵によって集められた証拠。
積み重なった嘘。
何度も繰り返された密会。
直哉は怒鳴らなかった。
問い詰めもしなかった。
妻が不倫旅行を楽しんでいる三日間で、自分の人生から彼女を切り離す準備を始めただけだった。
祖父から受け継いだ土地。
自分名義の家。
住宅ローン。
家財。
離婚届。
慰謝料請求。
そして、不動産会社への一本の電話。
「予定通り進めてください」
二泊三日の旅行を終え、何も知らずに帰宅した香澄を待っていたのは、開かない玄関と、もう自分の家ではなくなった場所だった。
一方、不倫相手の妻である相沢奈緒も、夫の行動を以前から疑っていた。
二人の裏切りによって、それぞれの家庭が崩れ始める。
これは、不倫された夫が復讐だけに人生を費やす物語ではない。
八年間の結婚を終わらせ、
失った時間を受け止め、
自分の生活をもう一度作り直していく物語。
そして、すべてを失ってから初めて、自分が何を壊したのかを知る妻の物語でもある。