あらすじ
「わたくし、そういうつもりはございません」――このセリフを、阿蘭は今後何百回口にすることになるのか、まだ知らない。
凰梁国の後宮、尚薬局に潜り込んだ阿蘭には、二つの秘密があった。 ひとつ、本当の名は沈明蘭。反逆の罪で処刑された父を持ち、生きるためだけに死んだ官女の名を騙っていること。 もうひとつ、毒と薬にかけては、後宮のどんな医官よりも詳しいこと。
目立たず、疑われず、薬棚の奥で息を潜めて生き延びる――それだけが望みだった。なのに寵妃が倒れた夜、うっかり「正解」を口にしてしまったばかりに、後宮には「身分を隠した名医が現れた」といういらぬ噂が広まり、あろうことか「主事さまと恋仲らしい」というおまけまでついてくる始末。
隠したいのは正体、欲しいのはただの静かな給金と上等な生薬。なのに気づけば、後宮じゅうの毒と誤解を一身に引き受ける羽目になっていた。
これは、名探偵になどなりたくなかった一人の薬師が、人違いだらけの後宮で生き延びる物語。