あらすじ
既婚者ばかりの釣り仲間数人と居酒屋に集まった夜、話題はいつものように釣果の自慢になった。
森田は前日に釣り上げた八十センチを超えるコイの写真を、もう何度もグループLINEに載せていた。一方、黒田敦也はここ最近ずっとボウズ続きだった。格好の標的を見つけた連中が、代わる代わる黒田をからかっていた。
ビールを三杯ほど空け、顔を赤くした黒田は、とうとうグラスをテーブルに置いた。
「魚は相変わらず釣れないけどさ、女なら最近一人釣ったぞ。ホテルまで来るようなやつ」
一瞬だけ個室が静まり、その直後、笑い声が弾けた。
森田は腹を抱え、膝からスマートフォンを落としてもすぐには拾わなかった。
「今日の酒、そんな強くないだろ。三杯で何言い出してんだよ」
別の男も笑いながら黒田の肩を叩いた。
「ボウズ続きで、とうとう魚じゃなくて女を釣った夢まで見るようになったか?」
黒田の顔から笑いが消えた。
「うるせえな。写真あるから見ろよ」
スマートフォンを取り出し、勢いよく写真フォルダを開く。
「嘘かどうか、自分で確かめろ」
さっきまで笑っていた連中が次々に身を乗り出した。
森田も落としたスマートフォンを拾うのを忘れたまま、黒田の画面を覗き込んでいた。
「おい……マジかよ」
「黒田、お前これどこで知り合ったんだ?」
俺は家にいる妻を思い出し、そちらを見ないようにしていた。
隣に座っていた高木浩介が俺の首に腕を回した。
「航平も見ろよ。黒田、今回は吹いてるだけじゃなさそうだぞ」
「俺はいいって」
「いいから一回見ろよ」
肩を引かれ、光る画面が視界に入った。
次の瞬間、グラスに添えていた指が止まった。
写真の女は、身体にフィットしたヨガウェア姿でカメラに向かって笑っていた。薄く加工された画面の中でも、左の眉尻には細い三日月形の傷痕が残っていた。
毎日見てきた傷だった。
写っていたのは、俺の妻――相沢静香だった。