あらすじ
一つ 日の落ちてより後 名を呼ばず 名を答へず
二つ 水を汲みし器 夜のうちに空にすべからず
三つ 道にて背を見たる者あらば 追ふことなかれ 振り返ることなかれ
祖母を亡くした十七歳の灰島汐里は、遺品の中から見知らぬ村の権利書を見つける。
斑戸村。地図に載らず、役所も管轄を曖昧にする、山あいの集落。
訪れた汐里を、村人は総出で迎え入れた。まるで、ずっと待っていたかのように。
隣家の老婆は笑顔で五つの掟を教える。「難しいことやないよ。守っとればええだけやから」
日が落ちると、村から音が消える。戸を叩く音。名を呼ぶ声。答えてはいけない。
掟を破っても、汐里には何も起きない。
ただ翌朝、村から人がひとり減っている。名前も、家も、思い出も残さずに。
そして誰も、その人のことを憶えていない。
――憶えているのは、汐里だけだった。