あらすじ
天正十年六月二日。明智光秀は、主君・織田信長を本能寺に討った。歴史が知る光秀の天下は、わずか十一日で終わるはずだった。しかし、この世では光秀が毛利家へ放った密使が羽柴秀吉方に捕らえられず、備中へたどり着く。信長横死を知った毛利勢に背後を脅かされながら畿内へ引き返した秀吉を、光秀は山崎で迎え撃ち、激戦の末に討ち果たす。
天下の簒奪者となる道を選ばなかった光秀は、かつて仕えた足利義昭を鞆から京へ迎え、第十五代将軍として復権させる。自らは管領として軍事、財政、訴訟を担い、滅びたはずの足利幕府を再興した。織田旧臣を従え、畿内と西国へ法を行き渡らせた光秀は、長い戦国の世を終わらせようとする。だが、御内書と奉書によって保たれる新たな天下は、東海の徳川家康、関東の北条氏政、越後の上杉景勝を完全には従えられず、白河の関より北では一枚の紙にすぎなかった。
本能寺の変のころ、出羽国米沢に暮らす伊達政宗は、まだ数え十六歳。中央で天下人が入れ替わっても、相馬との国境では昨日と変わらず人が死に、奥羽の争いを止める軍勢も救いの米も京からは届かない。その現実を胸に刻んだ政宗は、十八歳で伊達家の家督を継ぐと、幕府の私戦停止令に背いて領土拡大へ踏み出す。
父・輝宗の非業の死、佐竹義重ら反伊達連合に追い詰められた人取橋の敗戦、家臣や領民へ強いた犠牲。若き政宗は、勝つたびに恨みを増やし、敗れるたびに人を疑いながら、それでも片倉景綱、伊達成実、正室・愛姫らに支えられ、摺上原で蘆名氏を破って奥州の覇者となる。
やがて小田原の陣で初めて対面した光秀と政宗は、互いの胸中に自分と同じ孤独を見いだす。秩序があってこそ民は生きられると説く老いた光秀に、政宗は問い返す。「その秩序は、奥州へ何を届けた。禁制か、叱りの文か、それとも死んだ父を生き返らせる御教書か」
足利義昭の死によって再興幕府の正統性が揺らぐと、政宗は最上、佐竹をはじめとする東国諸家を束ね、ついに白河の関を越える。光秀が秀吉を破った最初の山崎から十数年。天下を守る老将と、天下を奪いに来た独眼竜は、同じ山崎の地で最後の決戦を迎える。
これは、本能寺の勝者となった明智光秀が足利幕府を再興し、その天下を伊達政宗が打ち破って仙台幕府を開くまでを描く、二人の英雄と無数の人間たちによる、もう一つの戦国史である。