あらすじ
海を見下ろす丘の上に、一軒の古いコテージがある。
かつては観光客向けの宿だった建物を改装した、小さなアパート。
そこには、人間もいれば、人間ではないものも住んでいる。
けれど、この島ではそれを特別なこととは思わない。
人魚が魚屋で働いていても。
夜になると猫の姿になる人がいても。
何十年も歳を取らない老人がいても。
「そういう人もいる」
それで話は終わる。
そんなコテージの大家をしているのは、十歳の少年が二人。
日焼けした肌に白い髪を持つ、勝ち気な少年・瑠海。
色白の肌に黒い髪を持つ、物静かで冷静な少年・碧。
二人は兄弟でも、親戚でもない。
もちろん家族でもない。
それなのに、ずっと一緒に暮らしている。
どうして十歳の二人が大家をしているのか。
どうして二人は一緒にいるのか。
島の人たちは、それを知っているような、知らないような顔をしている。
けれど瑠海と碧にとっては、そんなことより今日の家事のほうが大事だ。
「碧、魚焼けた!」
「まだ。焦げてる」
「え?」
「……裏側」
「うわ、真っ黒だ」
海から風が吹いてくる。
朝は漁船の音で目を覚まし、昼には島の誰かが訪ねてきて、夕方には海が赤く染まる。
夏には祭りがあり、秋には潮風が少し冷たくなり、冬には荒れた海を眺め、春にはまた新しい住人がやってくる。
大きな事件は、たぶんあまり起こらない。
それでも、誰かが困っていたり、寂しがっていたり、ちょっとだけ笑ってほしかったりする。
そんなとき、二人の小さな大家が動き出す。
人間も、人間ではないものも、島で生まれた者も、遠くからやって来た者も。
みんな同じ屋根の下で、それぞれの暮らしをしている。
海の見えるコテージで始まるのは、そんな人たちの、ささやかで温かな毎日の物語。